GRAND HOTEL

グランド・ホテル

原題: GRAND HOTEL
監督: エドマンド・グールディング
キャスト: グレタ・ガルボ/ライオネル・バリモア
製作年: 1932年
製作国: アメリカ
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これから、『グランド・ホテル』のお話をしましよう。

『グランド・ホテル』、これはドイツのビッキー・バームの、女の人の小説ですね。
これは群衆劇、もう『グランド・ホテル』言いますと、いろんな、いろんな人の話が一つの小説の中に集まっているんですね。
グランド・ホテル形式と言いましてね、後にそういう群衆劇が流りまして、その群衆劇をみんなグランド・ホテル・スタイルと言ったんですね。

で、これで一番おもしろいのはグレタ・ガルボ。偉いですねえ、MGMの最高のスターですね。それとジョーン・クロフォード。これもMGMの最高のスターですね。
この二人を顔合わせするというえらい事になったんですね。
ジョーン・クロフォードは絶対にガルボと共演したくない人。ガルボは、「ジョーン・クロフォードと私が出るんですか?」って笑う人。そういう二人を一緒にするところに、この作品の最高の興味があったんですね。

それでみんなは、二人が一緒に共演するだろうか心配したんですね。
そういう意味でも、この『グランド・ホテル』、MGMのこの作品は、大きな、大きな話題をなげかけたんですね。

最初、いよいよ始まる時、『グランド・ホテル』のロビーのセットができました。
セットのちょっと一段上にもうガルボは来て待っておりました。
ところが、そこへ向こうからジョーン・クロフォードがやって来ました。
二人は、初めて....スタジオで一回も顔合わせません、初めて会ったんですね。

ガルボは平気でしたけど、ジョーン・クロフォードはちょっと胸いっぱいでした。
ツカ、ツカ、ツカとガルボのそばへ行って「おはようございます」と言ったのね。
で、ガルボはどう言ったでしょう?「ご苦労さん」と言ったんですね。
さあ、それでカンカンに怒ったんですね、ジョーン・クロフォード。
「ご苦労さん」?あんまりだ。それで、「この映画に、出ません」と言ったんですね。
そういう事言われてもMGMは、もうガルボとジョーン・クロフォードの共演でポスターも全部作ってますから、困って困って大騒ぎした話があるんですね。

「ガルボの出番はどんな出番ですか?」とジョーン・クロフォードは聞いてたんですね。
有名なバレーダンサーが、もう人気もなくなって貧乏になってホテルにくすぶってる役です。
「ああ、そうですか。衣装は?」
衣装は一つだけです。
「ああ、そうですか、あたしの衣装はどんなの?」
重役の二号さんだから、十二着ぐらいのイブニングドレスがあって奇麗な靴もあります。
「それなら出ます」
ジョーン・クロフォードはそう言ってたんですね。

そうして二人が初めて顔を会わせた時に、ガルボが「ご苦労さん」と言ったんですね。
自分と同じ位置のスターだ思ってたのに、頭から「ご苦労さん」と言ったので、かんかんに怒ったんですね。
それで大騒ぎになって、ガルボは「何でジョーン・クロフォードさんは怒ったの?」と言ったのね。ジョーン・クロフォードは、カンカンに怒ってもう出ません。
それでこの『グランド・ホテル』は、なんとワンシーンも二人が一緒の場面がなかったの、えらい問題でした。

そしてジョーン・クロフォードは、サミュエル・ゴールドウィンという有名なプロデューサーのとこに行って、「私はあんな人と一緒に絶対出たくない。私にあの人に負けないような良い役をください」と泣きついたんですね、MGMからユナイトに移って。
それならと言って、『雨』サデー・トンプソン、あれをあげよう言ったらジョーン・クロフォードが「わーっ」と喜んで泣いた、そういう因縁が『グランド・ホテル』の裏側にあるんですね。

この『グランド・ホテル』のガルボの役は、バレリーナがもう人気がなくなってホテルにおりますと、そこへ宝石泥棒がやってくるんですねえ。
で、宝石泥棒がガルボの鏡台の宝石を盗った時に、ガルボが帰って来るんですね。

机の上見たら、自分のブレスレットがなくなってるんですね、イヤリングが。
どうしたんだろうと思ってるとカーテンの裾に男の靴の先がでてるんですね。
「あんた」と呼んだら、見つかったかと出てきたんですね。
泥棒です、けど泥棒と言えないから、「私はあんたの大ファンで、あんたの各国での上演をみんな観ております。私はあなたのたった一つの宝石、それを一生大事に持とうと思いまして、悪いけど盗みました」。

そう言ったら、「ああ、そうですか」と言って、「もう一遍言ってごらん」、「私はあなたの大ファンです」、「はい、それ一つあげましょう。もう一遍言ってごらん」、「僕はあなたの大ファンです」、「はい、これあげましょう」。
そうして四個の奇麗な宝石をあげて帰らした、そういうのがガルボの役ですね。

ジョーン・クロフォードは、もうなんともしれん、夜会の花形になって出て来る役ですね。
『グランド・ホテル』は、ガルボとジョーン・クロフォード、この二人の顔合わせで、もう世界中評判になった作品ですよ。

【解説:淀川長治】