SEVEN CHANCES

キートンのセブン・チャンス

原題: SEVEN CHANCES
監督: バスター・キートン
キャスト: バスター・キートン
製作年: 1925年
製作国: アメリカ

バスター・キートンの『セブン・チャンス』、おもしろいですよ、これ。
で、キートン、ご存知ですか?キートン。ご存知かなあ、チャップリンがバイオリン弾いて、キートンが伴奏した映画ありましたなあ、チャップリンの映画でね。あれ、なかなかおもしろかったね。キートンは、おもしろいサイレント時代の代表的なコメディアンでしたね。

キートン、チャップリン、ロイド、これが代表でしたね。三枚の切り札の一つですね。
そのキートン、どうしてキートン、バスター・キートン?本当の名前あるんですね、難しい名前が。何でバスター・キートン、そう言ったか?このキートンの一家は、代々芸人だったの、舞台の、寄席の。

それでキートンが生まれて間もなく、そうですね、七ヶ月ぐらいの時に、お母さんとお父さんが舞台でキートンを投げたんですね、二人が遊び半分に。
で、そういう事したんで警察に怒られたんですね、「そんな事して、いかん」と。
で、キートン、七つ、六つ、五つか、その頃にやっと舞台へ出たんですね。

そして出た時に、なにか梯子の上の高い台の上に上がるような役だったんですね。
で、バスター・キートン....これまだバスター言わないんですよ、そのキートン、上から、つるんと落ちちゃったんですね。

ところがキートンは、笑いも泣きもしないでまっすぐに降りて、すーっと上手へ歩いていったんですね。そうするとそこにいた拳闘家の男が、「バスター!」と言ったんですね。
「バスター!」、やったぞ!とそう言ったんですね。
それで、バスター・キートン言う名前になったんですね、「バスター!」、よくやったぞ、という名前ね。

という訳で、キートンは笑わないの。いつでもおもしろいけど、笑わないの。笑わないのをこなす役。だから映画の中でも、いつまでもベソをかいて笑わないのがこの人の役だったのね、つまり劣等感ですね。だから、恋愛しても困るのね。相手の人を口説くような事、絶対できないのね。
でも、そういうキートンが『セブン・チャンス』では、何千、何千人といったぐらいの、女の人に追っかけられる映画なの。まあ、キートンは一ぺんこんな役、演りたかったのね。

で、これは、何月何日の何時かに結婚したら何百万ドルとか貰う、という事になったの。
それが、みんなにわかったのね、新聞に出たかなんかでね。
そうすると、その時間に結婚したら何百万ドル、何千万ドル入ると言うので、たくさんの女がやって来て、キートンを追っかけるのね。

キートン、逃げるのね。逃げても、どんどん追っかけて来るのね、そういう風なコメディーなんですけど、キートン知ってる人にしたら、もう腹かかえて笑うのね。キートンが女に追っかけられる言う事は、絶対にありえないのね。
それが、何百人もの花嫁候補が、どんどん、どんどん追っかけて、キートンが笑いも泣きもしない真面目な顔で、テーッと逃げて行くのが、おもしろいのね。

という訳で、『セブン・チャンス』は、そんな映画ですけど、セブンというのはラッキーですね、ラッキーなチャンスですね、そういう風にキートンは自分自身を、映画の中でちゃんとキートンタイプをみせながら、私だってうけるんだよ、私だって女にこのとおり、うけるんだよ、という事をみなさんに笑いながら観せてるような映画なんですね。

で、セブンのチャンス、セブンは....みなさんご存知ですか?どうして、セブンがラッキーか、七つがラッキーか?

それは、上と、下と、北と、南と、その四つが人間の一番恵まれてるもので、北の風、南の風、東の風、西の風、これがなかったら、人間死んでしまう、四つ、大事。その他に、空と土と海、そこから恵まれるもの。
それで、三つと四つで、七つ、これがなかったら人間死んでしまう、というところで、セブンと言うのあるのね。
だから、外国の怖い映画『七つの封』、『第七の封印』なんて言うのは、人間が死ぬ時ですね、死ぬ時。

というようなことで、『セブン・チャンス』のセブンは、そんな意味なんですよ。
けれども、キートンのコメディーは、どっか、フランス的ですね。
ロイドはアメリカ中のアメリカ、チャップリンもアメリカ的、ペイソスとかいろいろいるけど、キートンはフランス的ですね、感覚がね。それでとってもおもしろい人でしたね。
バスター・キートンは、芸術家ですね。

【解説:淀川長治】