STELLA DALLAS

ステラ・ダラス

原題: STELLA DALLAS
監督: キング・ヴィダー
キャスト: バーバラ・スタンウィック/ジョン・ボールズ
製作年: 1937年
製作国: アメリカ
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『ステラ・ダラス』、もう名前聞いただけで、僕は、あーっと思うんですね。これはご覧になったら、キング・ヴィダーのバーバラ・スタンウィック主演の『ステラ・ダラス』でございます。

けれどもこの『ステラ・ダラス』は昔ずっと前、サイレントの時に映画になっているんですね。ヘンリーキング監督、あの有名な監督でベル・ベネット、ロナルド・コールマン、ロイス・モラン、ジーン・ハーショルト、そういう俳優で見事な映画になったんですね。僕の16位の時ですね。僕はこれ観まして、サイレントですよ、あんまり見事なんでね、涙があふれたんですね。そうしてあくる日学校行った時に、「淀川、お前は映画ばっかり観てちっとも勉強せんな。算数もっと勉強しろ」と言われたんですね。で、僕はその時「それは無理だ」言ったんですね。「無理だなんて、生意気言うな」って言った時に、「先生、そんな事言うけどね、いっぺん今やっている『ステラ・ダラス』ご覧なさいよ」って言ったんですね。そうしたら本当に3人の先生、若かったんだね、中学の先生、3人揃ってその晩に『ステラ・ダラス』を観に行ったんですね。可愛らしいね、先生の気持がね。

で、あくる日教室行ったら、ワーワーワーワー言っているの。「どうしたの」言っったら、「良い映画だ、すごいなー。あの子役のロイス・モラン初めから、ずっと終わりまであの子が変わらないで演ったの?15,6位であの女の子が二十歳になるまで演ったの?一人で演ったの?」「当たり前ですよ、女優だもの」と言ったけど「いいなー」って言ったから、「そんなんなら、先生、こんなに良い映画をみんなが帽子隠して、こわがって映画館に入るのを大間違いで、堂々と行かして下さいよ」と言ったら、それから三中は毎月一回、堂々と映画館借りて、午前中に映画を観に行く様になりました。『ステラ・ダラス』がもとでした。

という訳で、これは一部始終よく覚えております。この『ステラ・ダラス』がその自分の子どもだけど、こんな田舎で育ったらどんな子になるかわからん言うので立派な教育者がアメリカのニューヨーク連れて行く、子どもはニューヨークで勉強した方がずっと幸せになるんだから。ところが田舎者の『ステラ・ダラス』は「本当かいな」その為に娘を立派にしなさいって、とうとう説得してそうして『ステラ・ダラス』の娘はニューヨーク行く事になったんですね。

お母さんは自分の子どもだからさ、「わー辛いな」と思いながらも子どもの為ならと思うので、汽車で送るところあるんですね。そこがすごいんですね。それで、汽車に乗った、乗った、さあもうじき汽車が出発するいうところで涙が出て止まらないの、両方とも、親子が。それで自分のハンカチ貸してやって泣くな泣くな言って、シュシュシュシュ汽車が走りだしたの。ワーワー涙が出て止まらないの。ハンカチが無いの。娘にやったから。泣きながらこの停車場に来たの。で、最後にもう本当に自分の子どもだけども、もう自分が出て行って、会おうと思ったら子どもが逃げたの、あんなお母さんに会ったらみんなに笑われるというので。

で、『ステラ・ダラス』は泣きながらもう娘に会わない方がいいんだ、いいんだ。と娘に会わないで最後の最後は娘の結婚だけを新聞で見てソローっと見に行くのね、窓から中覗くのね、娘が綺麗な娘になって旦那さんと結婚する、それ見て良かった良かった言うところがあるのね。雨が降っている中で見ていたんですね。そしたらおまわりが来て「こら出ていけ馬鹿、おまえは覗いたらいかんぞ」そう言われてへーへーと行くところで終わるんですけど、これがのちにチャップリンの『街と燈』のラストシーンになりましたね。という訳で『ステラ・ダラス』は名作でしたね。

【解説:淀川長治】