THE TEN COMMANDMENTS

十誡

原題: THE TEN COMMANDMENTS
監督: セシル・B・デミル
キャスト: セオドア・ロバーツ/チャールズ・ド・ロッシュ
製作年: 1923年
製作国: アメリカ

デミルの『十誡』。このお話しましょうね~。私の言いたいデミルの『十誡』は、サイレントの頃のです。
テンコマンドメンツ、これは後にカラーになってもの凄い時代劇になりましたね~。デミルは、最もこの『十誡』が好きでした。けど、私が今、お話したいのは、サイレントの頃の『十誡』。面白いんですね~。現代劇なんですよ。

モーゼがいまして、モーゼが戒めたんですね。「汝、欺くなかれ。汝、何々するなかれ。」 十の戒めを説いたんですね。そういう映画、そうして、時代劇が始まるんですけど、バビロンの、、、けれども、これは時代劇と現代劇とを交互に見せる、面白い、デミルの映画だったんですね~。

「汝、欺くなかれ。」。モーゼのその言葉の後に、現代劇が出てくるんですね。モダンな憎たらし~い弟と、かた~いお兄さん、と兄弟がいたんですね。お母さんは、いいお母さん。ところが、弟は、過保護で悪い男の子になったんですね。で、お兄さんは、立派な立派な人で、建築家なんですね。ついに、大きな大きな教会が出来たんですね。お兄さんのおかげで。さあ、教会が出来たんで、みんなが、喜んで、喜んで、お参りに行って、お母さんは、「私の息子がこんな立派な教会作ったんだな~」って拝んで泣いたんですね。そうして、みんなが喜んで開会の式がはじまった時に、天井にカァーっと地割れがしてきたんですね。サイレントだけど、本当に天井がガラガラガラーっとなび響くような音がしたんですね。

で、みんなが、ワーァーっと言ってると、上から、ザーァーっと、落ちて来たんですね。天井が。大きな大きな教会が崩れたんですね。お母さんは下敷きになって、死んじゃったんですね。兄さんは、泣いたんですね。「この教会が潰れる事は無い!!」と泣いたんですね。どう考えても、この教会のこのセメントに何か不正があったのに違いない!!どんどん調べさせたんですね。調べさすと、自分の弟がこのセメントに最も悪い砂を混ぜて、うんと儲けてその金を懐に入れた事が解ってきたんですね。

お母さんを亡くした。弟が許せない!という事で、弟、追っかけたんですね。弟はもう逃げ場が無くなったんですね。もうこのアメリカに居れない。外国に逃げなくちゃ、居れない。それで、自分は外国に逃げるにも、ちょうど、その時金持って無い。どうしよう!と思ったんですね。それに、自分の相手になってる悪い女が居たんですね。その悪い女、ニタ・ナルディ。それに少しでも金もらおうと思って、ニタ・ナルディの綺麗な、綺麗な館に行ったんですね。

そこにニセクシーな女ニタ・ナルディが居て、「何しに来たの?」と言ったんですね。「俺ね、どうしても、逃げなくちゃならないんだ。おまえ、一緒に逃げよう」 「あはは。あなたと一緒に逃げる?馬鹿な事言わないで下さいよ。」と言ったんです。「よし、それなら、俺逃げるからお前のそのネックレス、そのイヤリング、おまえの腕輪、ブレスレット、それ、くれ!俺はそれを持ってここから逃げる」って言ったら、「イヤですよ!あなた、これ、私にくれたんでしょ。誰が、あげるもんですか!」そこで、首つかみ合いの喧嘩になって、とうとう、そのニタ・ナルディの首を絞めたんですね。キューっと。殺しかけたんですね。で、女が「助けてー!」と言った時に、手を離した。

で、死にかけた女が顔をあげて、「あんたにあげた物がある」って言ったんですね。 「何、くれたんだ?」「いえ、私はあんたにちゃんとあげてるんだよ。今更、私からもぎ取る物は何もないよ!」「何、くれたんだ?」「あんたにあげた物は、私の毒の血だ!」と言ったんですね。その毒の「病気の血を私は持ってる。誰にも隠していたけど、あんたにそれは移ってるんです。」言うたんで、男はびっくりしてゾッとする。そういう話があるんですね。

『十誡』のそれが一場面ですね。『十誡』はそういう風に現代劇の怖い怖い場面があったんです。初めは。又、次の場面、次の場面と、現代劇と時代劇が交互に交互に出たんですね。それが後に、カラーになって、時代劇だけの『十誡』になりました。けど、初めの、サイレントの時の、現代とモーゼの時代、それが又なかなか面白かった。

デミルいう人は、そういう人で、面白い、面白い映画作る。そうして、必ず女が綺麗な、綺麗な女が出てくる。その女のイヤリング、女のネックレス、その女の衣装、それは、見事な物で、もう本当最高の最高のモダン、最高の流行の衣装を見せる。けど、それだけでは困るので時代劇を。時代劇、『十誡』あのモーゼの十誡で、航海が真っ二つに割れる。ああいうのを観せて、男にも喜ばせる映画を作る。「映画とは娯楽だ!」「映画は娯楽だ!」「映画とは面白くなくてはいけない!」それがデミルのいつも言っている事でしたね。

【解説:淀川長治】