キートンの恋愛三代記
  • 原題:THE THREE AGES
  • 監督:バスター・キートン/エディ・クライン
  • 脚本:
  • キャスト:バスター・キートン/ウォーレス・ビアリー

  • 製作年:1923年
  • 製作国:アメリカ
  • はい、バスター・キートン、ご存知ですね、『キートンの恋愛三代記』、これは、キートンの最も素晴しい代表傑作ですよ。

    これ、おもしろい事は、三代の時代を、恋愛、恋愛、恋愛、見せて、その時代が実におもしろいですね。
    ローマ時代なんか凄いですね。ローマ時代は、『ベン・ハー』そっくりですね。もう凄い凄いあの戦車競争、それが出て来ます。
    おもしろいのはパロディ、みんなパロディと言いまして、もじりですね、あの名作のもじり、それがキートンらしくおもしろいんですよ。

    バスター・キートン、ご存知でしょう。バスター・キートンというのは、昔々でもないですけど、サイレントの頃からチャップリン、ハロルド・ロイド、ロスコー・アーバックル、デブくん、いろいろとコメディーの人いましたけど、バスター・キートンは絶対笑わないコメディアン、これがまたおもしろいんですね。ストーンフェイス、そういうんですね。

    ロイド、いかにも明るいチャップリン、ペイソス、デブくんいうのはもうドタバタ喜劇、その中でキートンは笑わない。で、笑わないキートンがどんな映画やってるかいうと、いろいろあるけどみんな素晴しい。

    それで、川喜多和子さんがいたころ、「淀川さん、キートンばっかりのをね、十本ほどやろうか」と言う。「いいよ、キートンはフランス的だよ」と言った事あるんですね。それは実行できなかったけれども、それぐらいにキートンは一番ハイカラだったの。モダンだったの。

    という訳で、この恋愛三代記もご覧になったらそれぞれのパロディが、いかにもおもしろいですね。
    『キートンの恋愛三代記』は、おもしろくて、おもしろくて、みなさんご覧になったらお笑いになりますけど、パロディでその時代のおもしろさが入っているんですね。
    バスター・キートン言いますと、どっちか言うとフランス映画的なんですねえ、もうそのペイソスが。

    で、私は、キートン大好きで、キートンがチャップリンと二人で、『ライムライト』で、一つの場面に出て来たんですね。キートンがピアノを弾いて、チャップリンがバイオリン弾いて、二人のデュエットですね、これ観た時、涙が出ましたね。

    キートンをチャップリンがつかったこと、昔チャップリンが始めて映画に出た頃は、キートンの方が偉かったんですよ。そのキートンをつかって、ちゃんとやってるところがチャップリンの愛情ですね。

    日本に、もうキートンが亡くなってから奥さんが来た事あるんです。
    キートンの奥さんに「バスター・キートンさん、おもしろかったですよ」言ったら、「ありがとう、ありがとう」て言った。

    「どんな人ですか?」って言ったら、「家でもあの調子なんですよ。もう、ぼさーっとしてますよ。近所の子供が、おじさん野球しよう言ったら、うん、言って野球するんですよ。もうのんきなおじさんだったんですよ。それで街の中でも、村の中でも評判良かったんですよ。もうけっして役者くさくなかったんですよ。」

    そんなキートンは、本当にあの通りの人だったんですね。で、キートンは、パーティなんか行っても、むっすりして、笑わないで、みんなの頭叩いていくんですね。パーティーでみんなが、まあ、あきれたねキートンは、なんて言うぐらいで、おもしろい人だったんですね。

    で、バスター・キートン、バスター言うたら、「このやろう、おい、やったぞ」と言うのが、バスターいう意味ですね。キートンは一才前から舞台に出されたのね。生まれて間もなく、三か月ぐらいでお父さんとお母さんが投げっこしたの、舞台で。で、警察に怒られたの、「そんなのしたらいかん」って。

    それでキートンは、三つ頃になって舞台へ上がって四つ頃、舞台から梯子で上へ上がるところでカチャンと落ちちゃったんですね。
    わーっとみんな、あの子泣くと思ったら、すーっとまっすぐ楽屋へ行っちゃったんですね、そのまま。
    そうすると、そこにいた拳闘家が「おーい、バスター!」と言ったんです。
    バスター、言うのは「良くやった、ばかやろう、良くやった」、いう意味なんですね、
    それがバスターのネームになったんでした。そういう人ですよ。

    【解説:淀川長治】