今日、著しい経済成長を遂げているインド。北西部グジャラート州にある巨大な繊維工場が本作の舞台である。工場内部に入っていくカメラが捉えるのは、劣悪な環境で働く労働者たちの姿。中には幼い子供もいる。あからさまな労働力の搾取。グローバル経済の下で歴然と進行する労使の不平等。出稼ぎ工場労働者が囚われる過酷な労働状況の告発を主題とする一方で、流麗なカメラワークによる画面はまるで宗教絵画のような「美しさ」を漂わせている。そして、画面を凌駕する圧倒的なまでの音響。作業機器から出る音の反復とその独特のうねりには、高揚感すら生まれるだろう。高精細・高解像度で記録され構築されたオーディオ・ビジュアルは、嗅覚や皮膚感覚まで刺激するかのように見る者の体感に訴える。1895年、リュミエール兄弟が『工場の出口』を発表して以来、映画は工場を捉えてきた。絶えず「労働」と「人間」を巡って来たともいえる映画の歴史に、本作はどのように位置づけられるのか?「記録」と「芸術」の境界を探求する、新鋭ラーフル・ジャイン監督による問題作。
2019年6月28日(金)、
Blu-ray&DVD発売決定!
Blu-ray:定価¥4,800(税別)
DVD:定価¥3,800(税別)
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監督兼プロデューサー。ニューデリーに生まれ、ヒマラヤで育つ。カルフォルニア芸術大学で映画とビデオを学び、美術学の学士号を取得。現在は美学・政治学の修士課程で学んでいる。本作はデビュー作になる。
2015年の11月に、自分ひとりで撮った完成途中の作品を、インドのゴアで開かれた「フィルムバザール」に出品しました。そこにいたフィンランド人の審査員が作品を気にいって、プロデューサーになってくれたのです。また、ドイツの共同製作者が、サウンドとカラーリングのポストプロダクションの資金を工面してくれました。それが、インド・ドイツ・フィンランドの3カ国がクレジットされた理由です。
特に被写体に要求したことはないですね。強いて言えば、彼らにカメラを意識させないことですか。撮影に入る2カ月前から、カメラを持たずに彼らとともに過ごすことで、彼らがカメラを意識して緊張しない環境を作りました。
彼らは、ヘッドフォンで音をブロックしています。しかし、工場から村に帰った労働者に話を聞くと、眠れない、機械の音が耳に付いて離れない、と言っていました。つまり、彼らの耳は完全に破壊されているのだろうと思います。私も3カ月も工場で過ごしていたら、完全に聴力が麻痺して、出血もあり、その後、二年間ほど大きな音の音楽は聴くことができませんでした。
はい。あの地域に1300軒くらいの工場があります。映画に出てくる工場は、そのなかで一番よいと言われている工場で、あの状態です。他の工場がどんな状況かは、推して知るべしです。
映画監督は、救世主のように思われているのでしょうか。ジャーナリストの仕事は、ある情報をAからBに伝える仕事だと皆さん知っている。なのに、映画監督は問題があれば、それに対する答えを知っている、と皆さん考えているみたいですね。この映画は、労働者階級のために作られた映画ではないです。彼らは映画を観る余裕さえないですからね。我々、中流・上流階級の人たちが、余裕のある人たちが考えて、それに従って行動を起こして行く。そのための映画だと思います。
次作を作りたい。でも、そのことについてはナーバスになっています。映画を作るにはお金もかかりますからね。でも、この映画が成功したことによってできた土台をもとに、そのことを考えると夜も眠れなくなるほど、関心を持ってこだわっている、次の課題に切り込む映画を作りたい。次の作品は、ニューデリーの土地、水、空気の汚染の問題に取り組もうと思っています。
提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭
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