宇宙の壮大さに比べたら、チリの人々が抱える問題はちっぽけに見えるだろう。
でも、テーブルの上に並べれば銀河と同じくらい大きい。
チリ・アタカマ砂漠。
標高が高く空気も乾燥しているため天文観測拠点として世界中から天文学者たちが集まる一方、ピノチェト独裁政権下で政治犯として捕らわれた人々の遺体が埋まっている場所でもある。
生命の起源を求めて天文学者たちが遠い銀河を探索するかたわらで、行方不明になった肉親の遺骨を捜して、砂漠を掘り返す女性たち……。
永遠とも思われる天文学の時間と、独裁政権下で愛する者を失った遺族たちの止まってしまった時間。
天の時間と地の時間が交差する。
水には記憶があるという。
ならば、私たちは失われた者の声を聞くことができるのだろうか。
さまよえる魂たちも、安らげるのだろうか。
全長4300キロに及ぶチリの長い国土は太平洋に臨んでいる。
その海の起源はビッグバンのはるか昔まで遡る。
そして海は人類の歴史をも記憶している。
チリ、西パタゴニアの海底でボタンが発見された。
―そのボタンはピノチェト政権により政治犯として殺された人々や、祖国と自由を奪われたパタゴニアの先住民の声を我々に伝える。
火山や山脈、氷河など、チリの超自然的ともいえる絶景の中で、流されてきた多くの血、その歴史を、海の底のボタンがつまびらかにしていく。
©TAtacama Productions (Francia) Blinker Filmproducktion y WDR (Alemania), Cronomedia (Chile) 2010
株式会社アイ・ヴィー・シー